おんどりの鳴く前に｜田舎町で起きた殺人事件をきっかけに、閉鎖的な村社会に根付く腐敗と闇が明らかになっていくブラックコメディ・サスペンス

2025.10.31

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おんどりの鳴く前には、2022年製作のルーマニア・ブルガリア合作映画。ルーマニア・モルドバ地方の小さな村を舞台に描くサスペンス。閉じられたコミュニティーの中で起きた殺人事件を捜査する中年の警察官が、欲望と正義の間で揺れ動く姿を映し出す。監督を手掛けるのはパウル・ネゴエスク。ルーマニアのアカデミー賞にあたるGOPO賞で作品賞・監督賞・主演男優賞など6冠に輝いた。

おんどりの鳴く前に　映画批評・評価・考察

おんどりの鳴く前に　映画批評・評価・考察

おんどりの鳴く前に（原題：Oameni de treaba）

脚本：36点
演技・演出：17点
撮影・美術：16点
編集：7点
音響・音楽：7点
合計83点

やる気のない中年警官イリエの、猫背でうだつの上がらない姿が、時に滑稽で不気味に映り、保身に走る彼の心情や、希望と絶望の間で揺れ動く葛藤は、観客に強い共感を抱かせます。ハリウッド映画のような「正義のヒーロー」ではなく、腐敗したシステムに絡め取られていく等身大の人間が描かれている点も評価できます。ラストのオフビートな衝撃的な結末は、好みが分かれるものの、多くの観客に強い印象を残しました。

今作品のストーリーは下記の流れで進行していきます。
主人公はやる気のない警官イリエ
ルーマニア北東部のモルドバ地方にある小さな村で、退屈な日々を送る中年警察官です。
警察の仕事を辞めて、果樹園を営みながら悠々自適に暮らすことを夢見ています。
惨殺事件の発生
ある日、平和だったはずの村で、斧で頭を割られた惨殺死体が発見されます。
この不可解な事件をきっかけに、イリエの日常は一変します。
村社会の闇に直面
捜査を進めるにつれて、イリエは村社会の根深いろ腐敗と汚職、そして住民たちの欺瞞（ぎまん）に直面します。
事件の背後には、地元の有力者や警察の不正が隠されており、彼は複雑な思惑が絡み合う状況に巻き込まれていきます。
イリエの決断
事件の真相を追うか、見て見ぬふりをするか、葛藤するイリエ。
聖書の引用に由来する邦題（「おんどりの鳴く前に」＝ペテロがイエスを裏切った故事）が示唆するように、「遅すぎた正義」をめぐるオフビートな物語が展開されます。

映画タイトルの意味について
映画『おんどりの鳴く前に』のタイトルの由来は、日本語版とルーマニア語版でそれぞれ異なる意味合いを持っています。

日本語版のタイトル「おんどりの鳴く前に」
これは、新約聖書のエピソードに由来しています。
イエス・キリストが逮捕された夜、弟子のペテロはイエスの言葉通り「おんどりが鳴く前に、あなたは三度私を知らないと言うだろう」と予言されます。
ペテロはイエスを裏切るつもりはないと強く否定しますが、夜が明ける前におんどりの鳴き声を聞き、自分が三度イエスを知らないと言ったことを思い出します。
映画では、保身のために見て見ぬふりを続けてきた主人公の警官イリエが、最終的に不正を暴こうと決意するものの、それが時すでに遅く、手遅れな状態になっていることを示唆しています。

ルーマニア語版のタイトル「Oameni de treaba」
ルーマニア語の原題は、英語にすると「Men of Deeds」となります。これには二重の意味が込められています。
表向きの意味：「善良な人々」。これは、映画に登場する村人や有力者が、表面上は善良で平和な生活を送っているように見えることへの皮肉な表現です。
裏の意味：「こちら側の人間」。不正や腐敗に加担し、同調圧力で沈黙を守る“裏社会の住人たち”を意味します。
このように、日本語版は聖書のエピソードを通して、主人公の遅すぎた決断と後悔を描写し、ルーマニア語版は皮肉とダブルミーニングで村社会の腐敗を表現しています。どちらのタイトルも、映画が描くテーマ、すなわち「見て見ぬふりをする人間の道徳的な葛藤と罪悪感」を象徴していると言えます。

今作品はAmazonプライムで見ました。

おんどりの鳴く前に　あらすじ

ルーマニア北東部モルドバ地方の自然に囲まれた静かな村。野心を失い鬱屈とした日々を過ごす中年警察官イリエは、果樹園を営みながらひっそりと第2の人生を送ることを願っていた。そんなある日、平和なはずのこの村で、斧で頭を割られた惨殺死体が発見される。捜査を任されたイリエは、美しい村に潜んだ闇を次々と目の当たりにしていき、やがて驚くべき結末にたどりつく。